第1章

6/245
前へ
/245ページ
次へ
 僕は2組になった。クラス名簿を上から下まで見回したけど、彼女の名前はなかった。他のクラスの名簿を見ようとしたけど、生徒がいっぱい群がっていて、「おれ何組だ、お前何組?」とか騒いだり「離れちゃったー」と女子同士が抱き合っていたりして、一つも見えなかった。  教室に初めて入って、自分の席に座ると、辺りを見渡した。もしかしているかもしれないと、なぜか思ったのだ。でも彼女の姿はなかった。さびしかった。  担任の話が終わって、始業式をするために体育館に行ったが、彼女がどこにいるかは見つけられなかった。もし同じ理系なら、3年になったら同じクラスになれるかもしれない。  教室に戻って新しいクラスメイトが自己紹介をしている間も、僕はずっと彼女のことを考えていた。もしかして転校してしまったんじゃないだろうかとも考えた。ホームルームが終わると僕は急いで階段を下りて下駄箱の前に貼ってある名簿を見た。彼女は4組だった。文系か、と思った。  クラスは別々になった。僕は理系で、彼女は文系だった。一年の文理選択の時、僕は迷わず理系を選んだ。なぜなら、国語、それも古典が大の苦手だったからだ。古典はいくら動詞の活用や文法を覚えても、古語はその情景に合わせて意味が違うので訳が変わってきてしまう。昔の日本語のはずなのに、英語よりも難しいと思った。現代文も内容が複雑すぎて理解できない。それに僕は、大学は理系に進もうと決めていたのだ。  僕たちの学年は全部で5クラスあって、理系の一クラスが科学探究コースという特別クラスで、あとは理系と文系が2クラスずつだった。僕たちの学校は、同じ学年でもクラスによって階が分かれている。1組と2組と3組が二階で、4組と5組の人たちが三階だった。1年の時もそうだったから、僕は4組や5組の人の顔も名前もよく知らない。二階と三階。つまり、理系と文系の間は階段で分断されているのだ。  もう会うこともなくなるのだろうな。同じ学校にいても、全く接点のなくなった僕たちはただの同学年の生徒だ。廊下や階段ですれ違ったとしても、僕は彼女に声をかけられないだろうし、何を言ったらいいのかも分からない。第一まだ一度も話したことのない僕がいきなり声をかけたら、彼女はどう思うだろうか?そう思うと勇気が出てきそうにはなかった。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加