第1章

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 理系と文系の交流はなかった。体育もそれぞれが2クラスずつ固まってやるし、他の教科でもかぶることは一切なかった。第一教科書が違うから、教科書を忘れたと言って借りにいくことはないし、共通の教科の世界史の資料集なんかもほとんど机に置きっ放しにしていたので忘れることはなかった。  理系と文系の間には大きな川のようなものが流れていた。  僕は友達が少なかったので、文系の人と仲のよい人は一人もいなかった。お昼は自分のクラスで食べ、たまに食堂や中庭に行っても彼女が来ているわけがなかった。彼女には鈴木さんという中学から一緒の仲の良い友達がいて、一年の時も同じクラスだったし、今回も同じらしかった。よって彼女が休み時間に教室から出る可能性はほぼゼロだということが判明した。彼女は一年の時も教室からほとんど出ない人だったのだ。  僕の青春は終わり、学校生活も終わった。未来に夢も希望もない。僕はひどく落胆し、毎日地面や床ばかり見て過ごした。    4月も終わりに近づいたある日、放課後何気なく図書室に行くと松山さんがいた。  図書の貸し出しカウンターに座っていた。どうやら彼女は図書委員になったらしい。僕はチャンスだ、と思った。彼女と話せる。僕は急いで、自分がいた場所から一番近いところにあった棚の本を題名も見ずに手に取って、カウンターまで持っていった。無言で本を置くと、彼女が驚いた顔で僕を見た。 「貸し出しですか?」 「ああ、うん」 「貸し出しカードに本の題名を書いてほしいんだけど……」 「あっ、そっか」  僕は慌てて鞄からカードを取り出した。それから内ポケットに入っているボールペンを取り出そうとして、クリップが引っかかって取れなくなった。 「これ使って」  そう言って彼女はカードのそばに濃い緑色の鉛筆を置いてくれた。 「ああ、どうも」  僕は焦って貸し出し欄に本の題名を書いた。 「宇宙の神秘」  こんな本借りてたんだ。カードと本を渡すと、彼女は紫色のインクのスタンプで今日の日付を押して、次の返却日はゴールデンウィークが明けた5月6日金曜日です、と言って本を僕の方に引き戻した。分厚い本だったから、少し重そうにしていた。 「ありがとうございました」
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