第1章

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 そう言われてびっくりした。ここは本屋じゃなくて図書室なのに。でも彼女が案外しっかりと委員の仕事をやっていることに僕はちょっぴり感動した。まあ、僕が戸惑って何も言えなくなっていたからだと思うけど。僕は本を鞄に押し込むと図書室をあとにした。  帰り道、駅まで歩きながら、僕はさっきのことを思い返していた。ほんの少しのやり取りだったけれど、僕はそれでもうれしかった。彼女と初めて話せた。それは僕の中ではすごく意味のあることだった。もっと彼女と話したい。そう思った。  僕はその本を家に帰ってからくまなく読んだ。宇宙なんて特に興味はなかったけれど、その本が彼女とつながっている唯一の物質のような気がしたのだ。  それから僕は図書室によく行くようになった。それまでは、電車時間までの時間つぶしに勉強をしていただけで、本なんてめったに借りなかった。今までに借りたのは、入学後のオリエンテーションの時と、夏休みの読書感想文用の本だけだった。  だから僕が参考書以外の本を読むことは珍しいことだった。読書といっても、小説とかではなくて実用書や図鑑を読んでいただけだったけど。  そんな日々が過ぎた5月のある日、いつものようにテーブルに、元素の周期表とその解説が全て載った本を広げていると、 「藤牧くん」  彼女に初めて名前を呼ばれて、僕はどきっとした。 「星が好きなの?」  え、と言って僕はどぎまぎした。 「『宇宙の神秘』。前にその本借りてたでしょ?」 「あっ、あれは……」と言いかけてすぐにうん、と言い直した。 「そうなんだ、私も星が好きなんだ」 「本当?何の星が好き?」  思いもよらない言葉が自分の口から飛び出したことに驚いた。 「うーん」 それから少し考え込むと、彼女は「オリオン座かな」と言った。 「そっか」 「藤牧くんは?」 「僕?僕は……北斗七星」  とりあえず誰もが知っているような星の名前をあげた。 「あとは?」 「あ、あと?」  彼女はきらきらした目で僕を見た。他に知っている星なんてなかったので、とっさに「かに座かな」と言った。 [かに座?藤牧くんって6月生まれなの?] 「うん」 「私はいて座なんだ」  彼女は少しはにかむように言った。 「元素の周期表なんか眺めてるの?」 「うん」 「芳香族炭化水素ってなんか一族みたいだね」 「え、そう?」 「じゃあ委員の仕事に戻るね」
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