530人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
ホームルームが終わったらしく、担任の先生が号令をかける。私は立ちあがり、「礼」という先生の言葉で頭を下げて、菅くんに向きなおった。
菅くんは起立も礼もせず、号令が終わるとすぐに鞄を手に学校を去る。今日も例外ではなく、机の中の教科書類を鞄に突っ込むと、椅子を引いて立ち上がった。
「あ、あのっ!」
「……何」
意を決して、足早に脇を通り過ぎようとした菅くんを呼び止めると、怪訝そうに眉を寄せて見下ろされた。
うっ……威圧感……。
百五十センチと少ししかない私と比べて、身長差は四十センチ近くあるのではないだろうか。内海くんも背が高いけれど、菅くんはそれ以上だ。
「菅くん、今日委員会なんだけど……覚えてた?」
ごくりと生唾をのんで切り出す。
「委員会? 何の」
「体育祭実行委員の。菅くん、先生に言われて委員になったでしょ?」
「……ああ」
私に言われてようやく思い出したように声を漏らす。それから一つ、大きなため息をついた。
「あのさ。悪いけど、俺今日用事あって出られねえから。一人で出てくんない?」
「えっと、用事って……?」
まるで悪びれていない表情で言った菅くんに、首を傾げて尋ねる。菅くんは苛立ったようにこちらを睨んだ。
「どうせ出ねえんだから、言う意味ねえだろ」
「……それは……」
そうかもしれないけど……でも、私一人で出るんだし、理由くらいは教えて欲しいような……。
「じゃ、頼んだから」
「あ……っ」
菅くんは私の返事を待たず、教室を出ていく。頭の中で考えるばかりで言い返すことが出来なかった私は、結局何も言えないまま菅くんを見送ることになった。
「……仕方ないか」
ほとんど人のいなくなった教室でぽつりと呟き、鞄を肩に掛ける。
委員会と言っても、今日は初回だし、恐らく大した議題は出ないだろう。一人でも問題は無いはずだ。
会議室として使われる隣の隣のクラス、二年三組の教室に入ると、出来るだけ隅の方の席を選んで座る。
すると、突然隣の机の上に音を立てて鞄が乗った。驚いて顔を上げた先には、ふんわりとした丸いボブヘアーが可愛らしい女の子が立っている。
「すみません、隣いいですか?」
「え? あ、はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
女の子は、丸い大きな目を細め、小首を傾げてはにかんだ笑顔を浮かべる。声も、顔も、仕草も、何から何まで可愛らしい女の子だ。
最初のコメントを投稿しよう!