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しかし、その紺野さやかを見ることになるのは、思っていたよりすぐのことだった。
昼休み。いつも通り内海と昼ごはんを食べていた、その時。
「内海ぃ! なんか先輩が呼んでんだけどー」
教室の反対側から間延びした声がして、何気なくそちらへ顔を向けた。
内海を呼んだのは、野球部で真っ黒に日焼けした同じクラスの梶だ。その後ろには、背の低い大人しそうな女子生徒が立っている。
垢抜けないその雰囲気に、一見すると一年生かと思いそうになるが、上履きに黄色いラインが入っており、二年生だと分かった。ちなみに俺たち一年生には赤、三年生には青のラインが入っている。
誰だろ……?
内海を呼び出す女子生徒は、まあそこそこに多いのだが、大抵数人で、しかも派手な可愛い女子と相場が決まっているので少し不思議に思った。
「なあ、内海――」
あれ、誰?
そう聞こうとした言葉が、一瞬で頭から吹っ飛んだ。
あれ誰? っていうか……誰だよお前。
「さやか先輩!」
見たことのない無邪気な笑顔で、聞いたことのない弾んだ声をあげた内海の姿に、頭が追いつかない。
内海はすぐさま席を立つと、女子生徒――さやか先輩のところへ駆け足で向かった。
「どないしたんですか、先輩」
さやか先輩のすぐ横に立っていた梶の間にさり気なく割り込み、首を傾げる。
先輩はその距離が近すぎたのか、一歩後ろに退いて内海を見上げた。
「えっと……お昼時に急に来ちゃってごめんね。今大丈夫だった?」
「大丈夫ですよ。それより先輩が来てくれるやなんて思ってなかったんで、めっちゃ嬉しいです」
「あ……はあ、はい……」
愛おしそうに目を細める内海に、さやか先輩は顔を赤くしてもう一歩後退った。
「あの、内海くんに用があって来たんだけど」
「はい」
「その……ごめん。今日一緒に帰れなくなったの」
「………………はい?」
内海は笑顔のまま軽く首を傾ける。
いや、それ怖えよ。
「ほ、本当にごめん! ちょっと、その、色々あって……」
「色々って何……」
だんだんと不貞腐れた表情に変わりつつ、内海が聞く。
さやか先輩は一瞬ためらうように視線をさまよわせ、それから意を決したように顔を上げた。
「――あのね、私、体育祭の実行委員になったの」
「はあ!?」
さやか先輩の言葉に、今度は露骨に顔をしかめる。
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