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「体育祭実行委員て、そんなんクラス替えしてすぐ決めたはずやろ!? そいつはどないしたんですか!」
「美希ちゃんは部活が忙しくて、委員会出られなくって、それで」
「よし。美希言うんやな、そいつ。ちょっと待っとってください。俺が一言がつんと言って――」
「わああ! だめ、だめだって!」
腕まくりしそうな勢いで教室を出ようとする内海を、さやか先輩が必死で止める。
「美希ちゃんね、毎日遅くまで練習しててすごく頑張ってるの! 今度試合もあって、それに向かって努力してて本当に偉くて、だから……っ」
きゅっとさやか先輩にシャツの裾を掴まれ、内海がゆっくりと振り返った。さっきまでの笑顔はどこへやら、見るからに不機嫌そうだ。
「応援したいなって思ったんだけど……だめかな?」
上目遣いでちらりとさやか先輩が内海を見上げる。
すると内海の頬――というか顔が、もう耳まで真っ赤に染まっていった。
いやいやいや、お前本当どうしちゃったんだよ……。
「あかんやろ、先輩……そんなんずるいわ……」
内海は両手で顔を覆ってうつむく。一体何がどうずるいのか、俺には謎だ。
別にさやか先輩が可愛くないとは言っていない。俺なら完全に守備範囲に入るタイプだ。
だが、内海はもっと理想が高かったはず。こんなにべた惚れしている理由が分からない。
「あの、じゃあ私、実行委員やってもいいの?」
「……俺がだめや言うてもやるんやろ。ほなしょうがないやないですか」
深いため息を吐きながら、内海が答える。さやか先輩はそれを見てぱっと顔を輝かせた。
「ありがとう、内海くん! じゃあ今日から一ヶ月、部活は週に一回しか出られないけど、よろしくね」
「はいはい――って、え? 週に一回?」
そっぽを向いていた内海が、目を丸くしてさやか先輩を見下ろす。
その時、タイミング良くチャイムが鳴った。
「あ、次移動教室なんだった」
はっとしたようにさやか先輩が目を見開く。
「バイ――えっと、部活の日以外に委員会が入ることは、たぶんそんなにないから。今日だけはごめんね、じゃあ」
「ちょ、先輩……!」
内海が慌てて声を上げるが、さやか先輩は小さく手を振って駆けていった。
「う、内海……?」
さやか先輩の姿が見えなくなり、ようやく席へ戻ってきた内海を、おそるおそる見上げる。
「はあ……」
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