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「私は曖昧なの。自分という存在自体が」
星の見えない青白い月の夜だった。大分暖かくなってきたと思っていたけど、この日はとても肌寒くて、桜の花が芽吹くのはもう少し先になるだろうな…なんてぼんやり考えていたと、思う。
「だから私は、曖昧な私というものをこの世に定着させておく為にも、与えられた務めを果たさなければいけないの」
ずっと月を眺めているのなんて、小学生の時に望遠鏡を買って貰った時以来だったかな?あぁ、でも、あれも三日くらいですぐに飽きて見なくなったんだっけ、無理にせびった割に全然使わないもんだから親父がカンカンだったなぁ…
「だからさようなら、森月くん」
サヨウナラ?
そうだ…そういって彼女は、あの鎌で切り裂いたんだ。僕を…
あれ?なんだか月が遠のいて行くような。違う、僕が落ちてるんだ。歩道橋の上から…夜空にもう一つ、赤い三日月が…いや、それも違う、これはパックリと割れた僕の胸が--
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