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イギリスは一日のうちに四季があるという。
気温も湿度も年間を通して激しい高低差がないぶん、頭上の世界は目まぐるしく変化する。雲ひとつない青空の下にいたはずが、さっきみたいにいつの間にやら雨に打たれていたなんてことは珍しくない。
代わり映えのしない日々のように思えても、街路樹や通り過ぎる人々の輪郭には確実に季節の移ろいが宿っていることに気づく。
夏を越せばあとはもう冬を迎えるのみと言わんばかりの寂寥の秋空。その憂いが気まぐれな小雨にと形を変えて、知らぬ間に街角を濡らしていく。
物寂しい風情ではある。けれどそこに甘やかな影が見えるのは何故だろう。遠い記憶の中の、母の面差しのような。
その手紙が届いたのはそんな折だった。
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