ープロローグー

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「えっ?」 強く握った指の爪は、手のひらに食い込んだ。 さっきまで隣にいた妹が手を離してどこかに行ってしまっていた。 顔が青ざめ、鳥肌がたつ。 「つ、紬?」 辺りを見渡すがいない。 心臓の音が鼓膜まで鳴り響く。 どうしよう。 どうしよう。 「紬!紬!」 声を張り上げ、走り回った。 公園、ゴミ置き場、駐車場すべて探したがいなかった。 息をきらし、立ち止まった。 かすかに、キュッキュッと靴の音がする。 「紬!」 呼んでも返事はない。 まだ二歳の子供だ。 返事をしてくれるわけもない。 ましてや、自分が夢中になれるものがあると呼んでも来てくれない。 音に集中する。 風の音ですら、うっとうしく思えた。 どこ? どこ? 音を頼りに走りつづけた。 靴の音は徐々に近くなってきた。 ようやく見つけられる思いで、気持ちは落ち着きを取り戻した。 だが、靴の音がとぎれてしまう。 その原因は、わかっている。 足が震えだした。 小さな悲鳴をあげ、両手で口をおおった。 消化用に溜めている、柵で取り囲んだ小さな池。 ふだん誰も中に入れないように、扉にはワイヤー錠がかけられている。
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