23人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ?」
強く握った指の爪は、手のひらに食い込んだ。
さっきまで隣にいた妹が手を離してどこかに行ってしまっていた。
顔が青ざめ、鳥肌がたつ。
「つ、紬?」
辺りを見渡すがいない。
心臓の音が鼓膜まで鳴り響く。
どうしよう。
どうしよう。
「紬!紬!」
声を張り上げ、走り回った。
公園、ゴミ置き場、駐車場すべて探したがいなかった。
息をきらし、立ち止まった。
かすかに、キュッキュッと靴の音がする。
「紬!」
呼んでも返事はない。
まだ二歳の子供だ。
返事をしてくれるわけもない。
ましてや、自分が夢中になれるものがあると呼んでも来てくれない。
音に集中する。
風の音ですら、うっとうしく思えた。
どこ?
どこ?
音を頼りに走りつづけた。
靴の音は徐々に近くなってきた。
ようやく見つけられる思いで、気持ちは落ち着きを取り戻した。
だが、靴の音がとぎれてしまう。
その原因は、わかっている。
足が震えだした。
小さな悲鳴をあげ、両手で口をおおった。
消化用に溜めている、柵で取り囲んだ小さな池。
ふだん誰も中に入れないように、扉にはワイヤー錠がかけられている。
最初のコメントを投稿しよう!