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しかしワイヤー錠は扉の柵にぶら下がり、鍵の役目など果たしていなかった。
大きく口を開けた扉は風で揺られていた。
「紬?」
恐る恐る近寄る。
風で揺られる扉を手で押さえしゃがみこんだ。
池の中を覗き込む。
長年雨水を溜めていたせいで、水は緑色に濁っていて底まで見えない。
小さな泡が、プクプクと浮かんでいる。
「紬!?」
目を見開いて両手を伸ばす妹の姿があった。
姉の姿を見つけると、顔を歪め口から大きな泡をいくつも出している。
きっと、叫んでいるのだ。
かなり池は深いのか、足がつくことなく水の中へどんどん沈んでいく。
誰かに助けを。
辺りを見渡すが、誰もいない。
団地が立ち並んでいるので、大声をあげれば誰かがきずいてくれるかも。
「誰……か」
恐怖で声がでない。
もたもたしているうちに、妹の体は池の底へと落ちていく。
姉は意をけして、池の中へ飛び込んだ。
底に足がつかず、水を含んだ服は重みをまして体を下へ下へと引きずり込もうとする。
抵抗しようと両手を仰ぐ。
足がつかない場所で泳いだことがないため、パニックになった。
体も重く、仰いでいる両手では自分の体を長時間浮かす事はできない。
沈む覚悟を決め、大きく息を吸い込み体をあずけた。
抵抗をやめた体は、下へ下へと落ちていく。
紬。
どこ?
コケと葉っぱで視界が悪く確認できない。
ゴポッと含んでいた空気がでた。
苦しい。
これ以上、息を止めていられない。
水を飲まないよう、両手で口を押さえ妹を探した。
そして、ようやく地面に足がついた。
地面はとても柔らかい。
目の前に浮かぶ葉っぱを手で押しのけた。
何かが、目の前に浮かびあがってきた。
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