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一体こんな時間に誰が遊んでいるのだろう?
紗英ちゃんは通り過ぎようとする足を止めてから、好奇心が出てきたのか足を声がする方向へと向けて進みました。
ちょっと歩くと、公園にある錆びた滑り台の前にランドセルをからった少女が立っていて、そして滑り台の先には1年生くらいの大きなスケッチブックを持った男の子が座っていました。
まさか噂のスケッチ少年!?と、紗英ちゃんは噂を思い出してドキリとしましたが、少年の前に立っている女の子を見て、あれ?と思いました。
(あの子って、もしかして………須藤さん?学校来てたんだ)
紗英ちゃんがそう思うのも無理はありません。
須藤菜穂ちゃんは、紗英ちゃんとは3年生の時に同じクラスだったのですが、クラス全員から酷いいじめを受けていたのです。
無視は当たり前、給食に異物を入れられたり服や靴にランドセルを隠されたり壊されたり、時にはクラス全員の前で無理矢理犬の餌を食べさせられたりとそれはそれは酷いいじめを受けていました。
紗英ちゃんは、直接手を出したりはしませんでしたが、それでも無視をしたりしていました。
いじめは3年生が終わるころまで続いて、4年生になってからはクラスが変わったので最近の状況は知りませんでしたが、あれだけ酷いイジメを受けていたのだから学校に来れないだろうと思っていたのです。
もしかしてイジメはもう終わったのかな?と、紗英ちゃんが菜穂ちゃんの様子をこっそり見守っていると、菜穂ちゃんはスケッチ少年に向かってこう言いました。
「宮城エマと、国良明宏の絵を描いて」
菜穂ちゃんがそう言うと、スケッチ少年は無言で頷いてサラサラとスケッチブックに持っていた鉛筆を動かし始めました。
数分後、スケッチ少年はピタリと鉛筆を止めてスケッチブックを菜穂ちゃんに渡しました。
スケッチブックの絵を見た菜穂ちゃんは、ニイ………と唇の端を持ち上げると、スケッチ少年にスケッチブックを返してそのまま公園から出て行ってしまいました。
紗英ちゃんは、菜穂ちゃんがいなくなったのを確認してから、ゆっくりとスケッチ少年に近づいて話しかけました。
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