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「いや……よく見えなかったんだ」
ハルは気まずさから口ごもるようにして答えた。
「じゃ手鏡をつかえよ」
「手鏡?」
「そしたら自分で見えるだろう?」
石田はやけに実践的な事を言った。ハルが怪訝な顔をして問う。
「もしかして、石田もなったこと在るの?」
「ば、馬鹿。そんなわけないだろう」
石田は慌てて否定する。男性器が無くなるというのは男にとって一つの恐怖であった。考えて見るとハルは、今まさにその真っ最中にいるのに気がついた。色々と不安になるのも無理は無いか。
「よっし。ハル今日の夕飯は寮の食堂じゃなくて外に飲みに行こうぜ」
石田はなんとかしてハルの気を紛らわせてやろうと思った。
「うっ、うん。別に良いけど」
飲みに行くと言っても、ハルは未だ酒が飲めないので居酒屋などに行っても食事がメインになる。
「俺のおごりだ」
「いいよ。そんなの悪いよ」
「遠慮するなよ。たまには良いだろう」
二人で言い合っている所に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「あららハル君に石田君じゃない。どうしたの二人して?」
「あっ真貴子先輩」
ハルが視線を挙げると研究室での教授との打ち合わせを終えたらしい真貴子先輩が、いつ ものジト目で此方を見ていた。
「こんちわっス」
石田が短く挨拶をした。以前ハルのサークルの上映会に顔を出した時に紹介された覚えがある。
「もしかしてお取り込み中だったのかしら?」
ハルは真貴子先輩の言葉に慌て言い訳する。
「いえ。そんなことはないです」
ハルは一歩前に出る形で石田から離れて真貴子先輩の方に寄った。
「先輩は、もう研究室の方は終わったんですか?」
「ええ。なんとかね。これから学食で夕ご飯でも食べようかと思っている所なんだけれど、ハル君達も一緒にどう?」
「俺たち今日はこれから二人で飲みに行くんです」
ハルが答えるより先に石田が口を開いて断りを入れる。
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