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「何だよそれ」
「お前の為を思って言ってるんだよ。どうせ手痛い失恋になるんだろうからさ」
失恋前提というのも腹が立ったが、実際のところ仮に男性器が元に戻ったとしても、真貴子先輩と上手くいく予感が無いのが余計にハルを苛立たせた。
「余計なお世話だ。第一僕が失恋しろうと何しようと石田には関係が無いだろう!」
「うるさい。俺が良い気持ちはしないんだよ」
無茶苦茶だ。ハルは理不尽な石田の言い様に無性に腹が立ってきて、くるりと石田に背を向けて力を込めた足取りで歩き出した。
「おい。ハル。何処へ行くんだよ」
「放っておいてよ」
いつものハルらしからぬ口調に石田は焦って言葉を継いだ。
「待てよ。今日の夕飯はどうするんだよ」
「石田は一人で食べてろよ。僕は学食で食べる。それから今日は友達ん家に泊まる」
「おい如何したって言うんだよ」
「今日は寮に帰りたくない気分なんだよ」
「そんな気分屋の女の子みたいな事を言うなよ」
石田のその言葉が、ますますハルの心をいらつかせた。今、僕の男性器が無く困っている事を知っているくせに、なんて酷い言いぐさだ。
「うるさい。うるさい。もう石田とは口聞かない!」
「わかったよ勝手にしろ!」
売り言葉に買い言葉の石田の叫び声を背後で聞きながら、ハルは今日の自分は少し変だと思った。
石田の言う様に、これじゃまるで我がままな女の子の立ち振る舞いじゃないか。まさか男性器を失ったことで、こんな形で影響が出ているのだろうか。そう考えると怖くなってくる。
いや悪いのは石田だ。昔から人の「恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ」と言うでは無いか。
馬が蹴る代わりに悪態をつくぐらい許されても良い話で、それが女々しいだとか文句を言われる筋合いは無い。ハルは無理矢理にでもそう思う事にした。
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