23人が本棚に入れています
本棚に追加
「おうい瑠奈。優香里。早川教授が来られたよぅ」
「えっ、もう?」
「なんでハル君が出てるのよ」
「さっき電話に出るって玄関先に行ったんだった。かち合っちゃったみたい」
「どうしよう。どうしよう」
「とりあえずハルは偶々遊びに来た学科の友達って事で、もう寮に帰る所って事にしよう」
「瑠奈、優香里。もう案内しても良いの?」
ハルがまた声を上げた。どうやらなんとなく状況を悟って玄関前で時間稼ぎをしているらしい。
「はい。今行きますから」
瑠奈は咄嗟にそう返事をした。
「とりあえず優香里は部屋を片付けておいて。あと水でも飲んで少しでも酔いを冷まして」
「わ、わかった」
瑠奈が玄関に出ると、小柄なハルが灰色のウールマントを羽織った長身の紳士を見上げるようにして立っていた。小柄なハルが玄関の中央に陣取り懸命に紳士の訪問を阻止している様子だ。
「あら、おじ様いらっしゃい」
瑠奈はハルの肩から愛想良く紳士に声を掛ける。
「ああ瑠奈君。こんばんは」
「ハルはおじ様の事は知っているんだよね」
「寮の責任者をなさっいるので少しだけ」
「今日は優香里の父ですよ。ハル君。いつも娘がお世話になっております」
「いえ。こちらこそ」
「ハル。優香里のお父さんは、うちの学校で魔導工学部の教授もなさってるんだ。占術の権威なんだよ」
「そうなんだ」
「いやいや瑠奈君。私がやっているのはしがない「占い」に過ぎないよ」
「またまたご謙遜を。そうだハルも一度占って貰えば良いのに」
「えっ、ここで」
急な話に驚いた様子のハルに瑠奈は軽く目配せをした。優香里が空き缶などを片付けて、勉強会をしていた様子を作るまで、なるだけ時間が有った方が良い。
「では、少しお願いしてみようかな……」
瑠奈の様子から事情を悟ったハルは早川教授に願い出た。
「まぁその話は後ですることにして、それよりもウチの馬鹿娘はどうしていますか?」
「今、部屋で勉強を」
「では様子を見ておきたいので、お部屋に上がってもよろしいですかな?お土産の美味しいシュークリームがありますよ」
そう言って早川教授は白い紙製の小さな手提げ箱を見せた。
「何か問題でも?」
「いえそんな事は無いです。どうぞご遠慮なく」
最初のコメントを投稿しよう!