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「ハル君。もっとお食べなさい」
そう言って早川教授は、わんこそばの様に皿が空くと同時にシュークリームを置く。瑠奈にそうそう食べさせるわけにはいかないので、ハルは苦しくなりながらも食べた。
五つ目当たりで、あの小さなケーキの箱の大きさを考えるとありえない数を食べている事に気づく。ふと横を見ると瑠奈も事態に気が付いたようだ。
「おじ様このシュークリームって、もしかして魔法ですか」
「はは。ようやく気が付きましたか」
そう言って早川教授は笑った。どうも早川教授が持っている小さなケーキの箱には、どんどんシュークリームが出てくる様に魔法がかけられているらしい。
「えっ加工された物質の精錬って凄く高度な魔法ですよね。魔道書とか大規模な魔方陣も書かずにそんなことがでるんですか?」
そう驚くハルに早川教授は種明かしをした。
「実はこの箱には、物質精錬ではなくて物質転送の魔法をかけているんですよ。『チロル』のレジを通ってこの箱に転送される仕組みです。後でケーキ屋にお金を払いに行かなくちゃならない」
そう言って早川教授は笑った。しかし物質転送の魔法だって、魔力の原動力をきちんと確保しないとすぐに止まってしまうはずだ。
もしかして早川教授の怒りの感情を原動力にしているのだろうか。ハルと瑠奈は、目の前で笑みをたたえている早川教授が、そら恐ろしく見えてきた。そんな様子を感じ取ってか、早川教授が笑いながら続ける。
「君たちは魔法を学んでいる学生ですから、魔法発動の原動力や対価も気になる所でしょう。実はこの箱にかけた魔法は、人の『友情』や『義務感』といったものを原動力にしているのですよ」
「それって」
「君たちが、強く優香里のことを「庇いたい」とか「助けたい」とか思ってくれているからこそ転送魔法が発動しているのですよ。たとえシュークリーム一個といえども、モノを転送する思念というのは大変なエネルギーです。優香里は本当によい友達に恵まれました」
そう言って、早川教授は優しい父親の目で優香里の方を見た。
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