夜遊び

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「さてさて。ネタがばれてしまった様なので、優香里と私はこれでおいとますることにします。もうこのケーキ箱の魔法は解きましたが未だ中に幾つか残っていますから、君達の明日のおやつにでも」  そう言って早川教授は瑠奈にケーキ箱を渡した。 「あっ、有り難う御座います」  瑠奈は、そうお礼を言ったものの、シュークリームは食べ飽きたのでどうせなら別のものが良かったのにと思った。それの様子を感じ取った早川教授はにやりと笑って言う。 「残りのは苺のショートケーキにしておきましたから」 「えっ。ははい」  自分の心が見透かされていた事を悟った瑠奈の顔が赤くなる。 「それとハル君。君もそろそろ家に帰りなさい」 「はい」  そう返事をするハルに、瑠奈はハルがもう帰ってしまうという事に気がつき少し不満に感じたのだが、それも致し方ない事だと思った。 「では優香里。帰るよ」  早川教授はそう言って指を鳴らすと、優香里の体の緊張が解けたのだが、いきなりだったせいか優香里は目を回したかの様にその場にぐったりと倒れ込んでしまった。  マントを羽織って帰り支度を整えた早川教授は、そんな優香里の体を片手で軽々と抱えて、瑠奈の部屋の外へと出た。早川教授は見送りに出たハルと瑠奈に思い出したように言った。 「そうそう瑠奈君。今度ハル君を連れてうちに遊びに来て下さい」 「はい。それじゃ、またおじ様のご都合が良いときにでも」   「楽しみにしていますよ。では私達はコレで失敬します」  早川教授はそういって夜空を見上げたかと思うと、優香里を抱えたまま、ふっと身をよじり、つむじ風のようになって空の向こうへ飛んで行ってしまった。  それはあっという間の出来事であった。ハルと瑠奈は、一陣の風になって飛び去っていった早川教授親子をあっけにとられたまま見送るしか無かった。
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