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「タクシーいらずだね」
瑠奈の部屋に戻りながらハルは、先ほど早川教授に見せられたすさまじい魔法の感想を出来るだけおどけて述べた。
「でも『魔法仕事量保存の法則』で習ったでしょう。術式もそうだけれど、対価とか動力とか考えると絶対タクシーとか呼ぶよりも高くついているよ」
高度な魔法になればなるほど、精錬された高価な珪砂や鉱物などを駆使して多様な魔方陣などを作り組み合わせていく必要があり、一から自分で作ろうとすると大変な労力となる。
また、それらをまとめ上げて直ぐに使える状態にパッケージ化した「魔道書」を使うにしろ、その術を発動させるための起動力には相応の魔力が必要となる。その上魔法の発動状態を維持する為には動力となるものも確保し供給し続けなくてはならない。
今、早川教授に目の前で見せつけられた様な、二人の人間がそれこそ瞬時に空を飛んで移動するような魔法は、魔道書も無しに並の魔法使いがおいそれと使える様なモノでは無い事は、魔法を学ぶ二人にはよく分かっていた。
「それでハルはこれからどうするつもり?」
部屋に戻った後、瑠奈はハルに尋ねた。
「今日はやっぱり寮に帰るよ」
そう 言ってハルは帰り支度を始める。
「そうだ。おじ様が置いていったケーキの半分はハルが持って帰りなよ」
「うっうん」
箱の中には四つのケーキが入っていたので、瑠奈は二つ取り出して深いタッパーに入れて冷蔵庫にしまった。帰り支度を終えて玄関で靴を履いたハルにケーキの箱を持たせる。
「ごめん瑠奈。部屋の片付けもしないで。今度埋め合わせするから」
「いいよ。そんなの」
瑠奈はつっかけを履いて、ハルと一緒に部屋の外に出た。
「でも、悪いよ……」
と言いかけたハルだったが、瑠奈の調子がいつもと違っている事に気が付いた。普段のの快活さが無い。
「少しさみしいな……」
ハルは瑠奈の言葉にどきりとした。
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