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「あっ勘違いするなよ。ついさっきまで騒がしくしていたのにハルが帰ったら急に一人になるって思っただけさ」
瑠奈は聞かれてもいないのに慌てて自分の言葉を説明する。
「瑠奈は一人暮らしだもんね」
「違う。そんなんじゃない」
「違うって?」
「そんなのわかんないよ……」
答えに詰まってしまった瑠奈は、そう言って横を向いてしまった。その様子を見たハルは無意識のうちに何かを期待していた自分がいた事に気が付いた。
そしてにその感情を上手くはぐらかされてしまった様に感じて、先走った自分が酷く恥ずかしいと思った。そもそも僕と瑠奈とはそんな関係じゃ無い。心の中でハルは自分にそう言い聞かせる事で、その恥ずかしさを誤魔化そうとした。第一僕には真貴子先輩がいるではないか。
「じゃ僕はもう帰るから」
そう言って、玄関先で振り返ったハルの正面に立った瑠奈が声をかける。
「ハル」
「なんだよ」
「お別れにキスしとこうか」
「え?」
唐突な瑠奈の言葉にあっけにとられているハルの隙をついて体を寄せてきた瑠奈は、その場で軽くジャンプをして唇でハルのおでこを優しく叩いた。着地すると、瑠奈は呆然と立ち尽くしているハルの肩の辺りを軽く両手で押す。
気の抜けたハルは突き飛ばされた形になって、その場にへたり込んでしまった。
「はは。お休みのキスだよ。唇にキスすると思った?」
前屈みになった瑠奈は笑いながらハルに言う。
「なんだよ。そういうのは男からするものじゃないか」
尻餅をついたまま、そう言い返してしまった所で、ハルは瑠奈がユニセクシャルであった事を思い出した。ハルはつい酷い事を言ってしまったのかも知れないと自分の言動を酷く後悔した。瑠奈の方はハルの言葉に、くるりと身を翻し背中を向けて肩越しに言う。
「そういうのは、ハルが僕を女にしてから言ってよ」
その瑠奈の横顔にハルは息をのんだ。瑠奈は本気なのだろうか。ハルはどう答えれば良いのか判らなくなって、結局何も言い返せずその場で固まってしまった。
「お休みハル」
瑠奈は何も言わないハルに背を向けたままそう言い残して部屋の扉を閉めた。
あわててその扉に駆け寄ろうとしたハルの耳に、鍵が掛けられる音がやけにはっきりと入ってきて、今日はもう終わってしまったんだなという事をハルは悟った。
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