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帰宅
ハルがこっそり寮に帰ってきたところを、玄関先で風呂上がりの小塚に捕まった。
「ハルお前、一体何してんだ?」
「いや、ちょっと出かけてて。今帰って来たところ」
「出かけてたって何処へさ?」
「えっと、同じ学科の塩見さんの家に……」
「おいハル。ハルの学科の塩見さんって塩見瑠奈様の事か?」
突然、小塚が色めき立つ。
「ま、まぁそうだけれど、小塚は瑠奈のこと知ってるの?」
「知ってる何も『麗しの瑠奈様を愛でる会』の会員だよ俺は。しかしどうしてハルみたいなちんちくりんが瑠奈様みたいな美人の家にお邪魔してんだよ」
「いや、そんなこと言われても」
「まさかお前。瑠奈様の事を「自分の恋人だ」とか、大それた事を言い出すんじゃないだろうな」
小塚は身構えて言う。
「こっ、恋人とかじゃないし」
小塚に瑠奈のことを「恋人」と言われてハルは慌てて否定した。
「おい。「とか」って何だ?」
「たっ、ただの友達って事だよ……」
ハルが小塚にしどろもどろになって答える。しかし友達っておでこにキスしたりするんだろうか。
一瞬、ハルは夜中布団の中に入って眠りに入る前に、石田におでこをキスされるのを想像してしまった。
「おう。ハル帰って来ていたのか」
そこにやって来た石田が声を上げる。
「いっ、石田!」
ハルは自分の顔が一気に赤くなってしまうのを感じた。石田とは夕方喧嘩別れていて、ただでさえ顔を合わせにくいのに、顔を赤らめている所を見られるなんて恥ずかしすぎる。ハルは思わず顔を背けた。
「なっ、なんだよハル?」
石田が怪訝な顔をした。そこに小塚が話しかける。
「おい石田聞けよ。ハルの奴、今日は瑠奈様の家に遊びに行ってたんだぜ」
「ああ。今日は友達の家に泊まるとか行ってたが、そいつの家か」
憮然として石田が言う。石田は「友達の家に泊まる」と言ったハルの言葉を覚えていたようだ。その言葉を小塚が捉えた。
「おいハル。泊まるって何だよ。さっきと話が違ってくるじゃ無いか。瑠奈様とは、もうそう言う仲になっているのか?」
小塚は取り乱していた。ハルは正直な所小塚の事はどうでも良かったが、心の中で石田に勘違いされるのは嫌だなという思いがわき上がっていた。
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