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デート
「ハル君。元気ないね。何か悩み事?」
遅めの昼食が一緒になった優香里がそう話しかけてくる。学食のテラスの丸テーブルの上にはハルのチキンカツ定食と、優香里のお弁当が広がっていた。昨日、ハルは小塚からハルの下半身にかけられた魔術の解析には思ったよりも時間がかかりそうだという話を聞いており、今朝は少しばかり陰鬱であった。
そんな所に悩み事があるのかと聞かれても、まさか優香里に自分の男性器が喪失中であるという話をするわけにはいかないと思った。
「いや、そんな事は無いんだけれど」
ハルは、先日小塚から返された片方の睾丸が欠けた陰部が入ったガラス瓶の事を考えながら、曖昧に返事をする。そんなハルの様子に優香里は幾分、訝しげなまなざしを向ける。
「まっ、男の子にも色々あるのか」
優香里が気を遣ってそう言ったのだとハルには解っていたのだが「男の子」と言われた事が些か心に堪える。こんな悩みを抱えている「男の子」は他にもいるのだろうか。もしかして僕は「女の子」になってしまっているのでは無いのだろうか。
この前、中途半端に調べた自分の股間の事が気に掛かる。もし本当に「女の子の」が出来てたらどうしよう。とにかく、まず確認をしなくてはならない気がする。でもまだハルは本物を間近に見たことは無かった。
そう言えば石田の奴が確認する為に手鏡を使えとかいっていたのを思い出したのだが、生憎ハルは手鏡を持ち合わせていなかった。でも、なんで石田は手鏡を使えとか言っていたのだろうか?ハルの心の中に大きな疑問が残る。
「手鏡かぁ……」
「えっ、なんの事?」
不意に口に出たハルの言葉に、目の前の優香里が不思議そうな顔をして聞いてくる。
「いやっ何でもない」
ハルは顔を赤らめた。
「手鏡がいるんだったら、私の貸してあげようか?」
まさか優香里に借りた手鏡で自分の股間を観察するってわけにはいかない。慌ててハルは言いつくろった。
「いやいやいや。帰りに百円ショップでも行って買うつもりだから大丈夫だよ」
「そう?」
優香里はさして気にする様子は無く、生協で買ってきた紙パックの珈琲にストローを突き刺して口に運ぶ。
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