第一章 はじまり

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 なんだかやばい気がする。学校のカバンを抱きしめるようにして、壁に寄りかかる。通り過ぎていく通行人が、怪訝そうに視線を向け始めているのも分かる。でも痛みがどんどん強くなっていく。視界の隅で心配そうな顔が少しずつ増えてきた時、強い痛みが額の奥を突き抜けた。 「……ったぁ!」  体がずるずると壁ずたいにずり下がっていくのが止められない。とその瞬間、留めるように腕をとられた。 「大丈夫ですか? 顔、真っ青ですよ」 「とりあえず中で休ませた方がよくね?」  必死で目を開けると、どうやら店から出てきた男性のようだった。私に声をかけてくれた人よりも若い男の人が店の入り口から顔を出している。 「すみません……。」  気分すら悪くなっていて、ハンカチで口元を抑えながら、なかば抱きかかえられるように店の中に入る。その瞬間、漂う古い物のかび臭さと埃っぽさにハンカチをぐっと口元に押しつけて、いざなわれるままに店の奥へと進んだ。  どうやら土間だったらしいところを抜けて、磨き抜かれた縁台に靴を脱いで、その先にある畳の部屋にあがらせてもらう。 「水を持ってきますから、横になっていて構いませんよ。いちおう毎日拭いているので、キレイだと思います。」 店内の雰囲気を断ち切るように、男性は障子を軽くしめて私を横になるよう言ってその場に残すと、さらに部屋の奥へと姿を消した。  一人で横になって目を閉じる。少しずつ痛みがおさまっていく。畳をする足音がして、目を開けると、心配そうな表情で和服姿の男の人が水差しとグラスをもってくるところだった。 「体、起こせますか?」  ゆったりとした低く静かな声に、小さく頷いて上体を起こすと、水差しから水を注いだどこかまろやかな歪さをもつコップを差し出してくれる。  お礼を言って、コップに口をつけ、水を飲む。透明な美味しさがのどを流れ、偏頭痛がさらに和らいで、大きく息を吐いた。 「大丈夫ですか?」 「はい。」 「しばらく休んでいていいですよ。私は店の方にいますから、何かあったら声をかけてください。」 「ありがとうございます。」
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