第一章 はじまり

4/4
前へ
/59ページ
次へ
 店の男の人は売り場の方へと姿を消す。きちんと障子をしめていくのを律儀だななんて思いながら大きく息をはいた。どうやら日本の古道具や骨董を扱う店らしい。埃っぽさとかび臭さ、その木の乾燥したにおいに懐かしさを感じながら目を閉じる。人のぬくもりや感情を経てきた物や、それが伺える痕跡の残る物が好きだった。気分がマシになったら、売り場を見せてもらおうなんてげんきんに思う。そう思える状態こそ、ゆとりが出て来た証拠だった。私に気を遣ってくれているのか、売り場の方はことりとも音はしない。  なんとなく懐かしいにおいに緊張していた気分がほぐれて、私はそのままうとうととしながら眠りの中へと落ちていった。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加