第5章

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五  イベント会社旅団からの仕事は会場の設営ばかりではなかった。ただ人間関係を疎ましく思っていた丈太郎はその手の力仕事を好んでやっていた。会場整理や舞台演出の補助的な仕事はできる限り断っていた。  高原洋子と会う約束をした日はネットアイドルの握手会の警備だった。当初、会場設営は前日の夜に終了し丈太郎にはイベント当日の仕事は入ってなかった。洋子と会うのは彼女の仕事の終わりを待って夕方の六時で約束していた。食事をしながら話しをすることにしていた。その前に丈太郎は菅沼に会って、東和医科大学に行って見たシンノーファーマの山際と田所という医者の件を報告して、今回の件に関係するかどうかは判らなかったが田所という医者のことを調べてもらおうと考えていた。東和医科大学から仕事場のショッピングモールに向かうバスの中からスマホで東和医科大学のサイトと付属病院のサイトをチェックした。がんセンターのページにあった所属医師の紹介ページから得られた田所の情報が気になったからだった。  名前は田所安彦、昭正薬品の若いMR河相隆が言っていたとおり末期がん患者のターミナルケアを専門としていて役職らしきものは主任となっていた。プロフィール欄にあった出身大学は東和医科大学ではなく九州の福岡にある国立大学の医学部だった。出身は九州の大分県。  そこのところに丈太郎は何か引っかかるものを感じた。丈太郎は医師は医局つながりで勤務する病院が決まって行くことぐらいのことは知っていた。しかし九州の国立大学の医学部と関東の東和医科大学にどんな繋がりがあるのかを計り知ることはできなかった。念のため他の医師のプロフィールも確認したが、大半は東和医科大学の出身者で占められていた。東和医科大学以外の出身者でも関東近辺の遠くても関西の大学出身者までだった。九州の大学出身者は田所安彦だけだった。九州生まれで九州の大学の医学部出身者が関東の大学病院の医師に成った経緯を知りたかった。だが、さすがに丈太郎でもちょっと気になったからといって九州の大学までのこのこと出かけることはできなかった。  アイドルの握手会が無事終了し帰り支度をしている丈太郎に社長の猿田がついでに会場の撤去まで手伝わせようとしたが、丈太郎が何日も前から予定していた用事があると言って断ると珍しくからかい混じりに非難した。
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