第10章

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「戸田さんと親しかったお医者さんていたの」 「いたかなあ、それがどうかしたの」  佐知子がいったい何を言いたいのか山際にはわからなかった。 「山際さん、お金欲しくない」  唐突だった。山際は佐知子の顔を真正面から見直した。 「・・・そりゃ欲しいね。無いより有った方が良いもんだよね。でも突然どうしたの」 「二人でお金儲けしない」  佐知子は流行の化粧で隠したまだ幼さの残る顔で笑った。  佐知子は山際にお願いと言いながら大胆な行動を山際にとらせた。  まず、佐知子は山際に東和医科大学付属病院の田所とコンタクトを取り、田所に戸田の仕事を当面引き継ぐことなったとウソを吐けと指示した。そして肝心なのは、自分は戸田と田所がしていたことを知っていると付け加えるのを忘れるなと言った。 「お前は澤田に言われたとおりにやったんだな」 「はい」  菅沼は呆れ顔をした。 「おまえばかじゃないか。で、田所の反応はどうだったんだ」 「何のこと言っているのかわからんって追い返されました」  丈太郎は、自分が病院の廊下で田所を追いかける山際を見たあの時だろうと思った。 「それから」 「彼女にそれを伝えたらもう一度行ってきてって言われて、病院じゃなんなんで、先生のマンションでお帰りになるのを待ち伏せて、帰ったところを」 「それで今日はどうだったんだ」 「前と同じです。家にも上げてくれませんでした。マンションのコンシェルジェさんに頼んで部屋に電話は繋いで貰ったんですけどね、やっぱり会ってはもらえませんでした」  佐知子は大胆な行動を山際に取らせときながら、山際には佐知子が見た戸田の遺書の詳細は話してなかった。田所を利用して金を手に入れるために必要な最小限の情報しか伝えなかった。それは、山際が万が一自分を裏切ったり、しり込みして逃げ出した場合に遺書の秘密を握っている自分に危害が及びそうになった時の保険になるだろうと用心してのことだろう。  それはいかにも素人が考えそうなことだった。 「で、今日その帰りに神宮寺公園で襲われたんだ」 「はい」 「どこへ行く途中だったんだ」 「澤田佐知子のマンションです。彼女から今日の田所との交渉はどうなったかって電話があったんです。その報告に行く途中でした。彼女、新高原のワンルームに住んでるらしくって、大体の住所聞いたんで」
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