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「これは俺のあてずっぽうなんだけど、君は、たぶん戸田が疑わしいことをやってるのを月穂から何か聞いてたんじゃないかな。月穂が死んだ後、気になった君は経理としての立場でそれとなく調べた。すると、月穂の上司だった戸田の身辺に不信な資金の流れがあることを知った。経理上は問題がなくても、日々それに携わっている人がみれば判るようなことかな。でも四年の月日がたっても確たる証拠は掴めなかった。そんな時、戸田が自殺した。君はそれを千載一遇のチャンスと思った」
洋子の睫毛が小さく震えた。
「三通目の遺書。あれは君が書いたんだよね。たぶんそこには君が調べた事が書いてあった。主に不正なお金の流れが書かれていた。ちょっとした創作を加えたかもしれないね。告発書としての遺書のインパクトは強いからね。内容の真偽はともかくとしても、当然公のことになると思った。だけどそれは徳大寺にあっさりともみ消されてしまった」
丈太郎はそこまで言うと額に当てた手をゆっくりと離して、シーツの下の握り締められた洋子のこぶしをそっと包んだ。
「ありがとう。俺が過ごした4年の歳月も君が過ごした歳月も同じだったんだ」
ふと見ると洋子の目から一筋の涙がこぼれていた。
「ごめん、起こした」
目を閉じたままの洋子の首がゆっくりと横に振られた。
丈太郎はバツが悪かった。
「もういいんだ。終わったんだ」
洋子の涙が止まらなくなっていた。
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