第12章

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十二  動きが素早かったのは麻取だけではなかった。  今回の事件が夕刊に掲載されると同時にシンノーファーマは戸田の自殺は別として相次いで二人の社員が殺害されたことについてのプレスリリースをした。  死んだ戸田はシンノーファーマのMRであることを隠れ蓑として現在拘留中の医師T氏と結託して、未承認薬を始めとする違法薬物の取引をしていたと発表した。  記者からは戸田の自殺とその犯罪との因果関係を問われたが、個人的なことで会社が一切あずかり知らないこととしてコメントしなかった。  犠牲になった社員のことについては、戸田の不正行為を偶然見つけ、それを会社に告発しようとしたところを戸田とT医師が関係した暴力団の組員によって証拠隠滅の目的として殺害されらしいと説明したがそれも捜査中の段階でありハッキリしたことは言えないとした。  そして、会社の関知しないところで社員と反社会的勢力との癒着があったこと、シンノーファーマという会社が彼らの活動の隠れ蓑になった事実を非常に重く受け止め、今後社内における社員一人一人の管理体制のありかたを見直すとともに社員教育の強化改善に努め、会社の活動のディスクロージャーを更に推し進めるとした。  最後に世間をお騒がせしたこを謝罪して、今後、反社会的勢力に対してシンノーファーマは断固とした姿勢で臨むことを新たにし、このような事が再発しないよう全社を挙げて取り組む所存であると結んだ。  つまるところ、シンノーファーマに道義的責任はあるが、犯罪に加担したという直接的な責任はないというものだった。  専務の徳大寺がいち早く打った手により今回の事件がシンノーファーマの屋台骨を揺るがすような惨事に発展する模様はなくなった。無論、専務の徳大寺に災禍が及ぶこともなかった。  明らかに専務の徳大寺が動いたと丈太郎と菅沼は確信した。  ただ、山際と洋子のことはなぜか伏せられていた。暴行と拷問を受けた未婚女性の洋子を世間の好奇に晒さらさないようにする配慮だろうと、丈太郎は良い方に取ることにした。  洋子の容態は安定していたがあまりのショックせいかまだ一日の大半を病院のベッド中で眠って過ごしていた。たまに起きても言葉を上手く出せなかったため、本格的な警察の事情聴取は洋子の回復を待ってからになっていた。
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