第8章

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「俺の質問に対して田所を知らないと答えたことです。死んだ戸田と田所の関係をまったく知っていないのなら、百歩譲って知っていたとしてもその関係に疑いを持っていないなのなら。疑いを持ってないって言うのは、あくまでも二人の関係が大学病院の医師と製薬会社のMRという仕事上の付き合いの関係であるということです。だとしたら、自らが喋ったせいで東和医科大学を戸田と山際が訪問していること知られた俺に医者の田所のことを知らないと隠し立てする必要があったでしょうか」 「・・・微妙なとこだな」 「俺はこう思ってます。山際は田所と戸田の隠された関係までは知らない。ただし、二人には表ざたに出来ない何かがあるとは感づいている」 「なんだ、その表ざたにできない関係ってやつは」 「それは俺にもまだ判りません。だだし、戸田は田所と最後にあったとき上機嫌だったそうです。二人の間にシンノーファーマでの付き合いとは別な関係があったんじゃないでしょうか。そっち関係で良い話しでもあったんじゃないでしょうか。ところで菅沼さん、田所について何かわかりましたか」  菅沼はあからさまに弱ったなという顔した。どうせそんなことだろうと丈太郎の期待が萎んだ。 「俺だって調べたんだよ」 「ネットで調べられるようなことじゃないでしょうね」 「当たり前だ、バカにするな」  田所の簡単な経歴は今のご時世、東和医科大学付属病院のホームページにディスクローズされていた。年齢は38歳、九州の大分県出身で福岡にある国立大学の医学部を卒業していた。専門は消化器内科だった。 「ある知り合いに田所の身辺で判る範囲のことでいいから教えてくれって頼んだんだ」 ―ある知り合い? 「ネットで判ること以外で判ったことは」 「判ったことは?」 「九州の大分県で母一人子一人で育ったことと、その母を8年前にがんで亡くしたこと。その2年後東和医科大学付属病院に転属したこと」 「それだけですか」 「いや、まだあるよ。やつは独身だ。唯一の家族だった母親を亡くしてからは天涯孤独だ」 「それだけ」丈太郎の欲しい情報の百分の一もなかった。 「ここからだ、やつが今住んで居るところ。八本松町のタワーマンションの三十階だ。お前も知ってるだろう億ションだぞ。医者とは言え、たかが大学病院の勤務医が八本松の億ションに一人住まいだ」
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