第8章

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 丈太郎の頭の中に四年前の光景がフラッシュバックした。幾ら待てどもコンビニへ飲み物を買いに行ったきり戻ってこない月穂を捜して部屋を飛び出したときのこと。交通事故現場の検証をしている風景に出くわしたこと。そして道路に転がる見覚えのある月穂のミュールを見たときのことを。首謀者を追いつめときながら物証がないために今でも逮捕できずにいることを。 「菅沼さんはそれで良いんですか」 「・・・良かないよ」 「俺も同感です」  二人とも口にこそ出さなかったが四年前の二の舞は踏むまいと硬く思っていた。  丈太郎と菅沼は戸田の自殺が麻取が動いている件とバッティングしないことを前提に独自捜査を続けることにした。ただし、丈太郎を尾行している者がいると判った今、最悪の場合を考慮して戸田の自殺の件の始末を早急につけるため集中捜査の必要があった。ましてや麻取が動いていると仮定された以上なおさら悠長な捜査はできなくなっていた。  菅沼は戸田の自殺した際に聞き取りをした上司や役員に再度聞き取りをすることと、麻取の知り合いに無理を承知で掴んでいる情報を聞き出すことにした。更に田所が九州の病院に勤務していた頃のことを洗うことにした。  一方、丈太郎は山際、田所の身辺と行動を徹底的に再調査することにした。 「ところで、丈太郎。あのお嬢さん」 「高原洋子ですか」 「大丈夫か」 「彼女は信用しても良いと思います」 「そうじゃねえよ。麻取が動いてんだ。戸田が田所と関係があったとしたら、この事件根が深えぞ」  菅沼はもう麻取のことを隠さなかった。 「彼女、危なくねえか」  丈太郎は胸騒ぎがした。さっき洋子が電話に応答しなかったことが急に気になった。 「戸田の自殺が訳ありだったらとしたらなおさらだ」  そういえば菅沼は最初から戸田の自殺が本当は殺しだと言っていた。 「直ぐに手を引かせます」  菅沼はその方がいいなと言ってから、お前も気をつけろと付け加えた。  店で菅沼と別れた丈太郎はアパートへ帰る道すがらイベント屋旅団に電話入れた。時刻はもう9時を回っていたが、社長の猿田が電話に応答した。それまでに何度か洋子にも電話をかけたが相変わらず留守番電話に切り替わった。
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