仕事ですから

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「今回の企画もよかったよ椛田君」 「有難う御座います、部長」 言いながら、愡純は顔を引きつらせないように必死だった。 今愡純が居るのは居酒屋の個室。 前に座ればいいのに部長は愡純の隣に座り、太腿を撫で回している。 「前回も君が持ってきた企画は素晴らしかったからなぁ、次回も期待しているよ…愡純君」 「ええ、もちろん仕事はご期待通りに」 ニッコリ微笑み愡純は言う。まるで自分に言い聞かせるように。 これも、接待も嫌いな奴と食べる夕食も立場が上なら『仕事』なのだと。 prrrr 爽快なコール音が響く。 部長はせっかくの雰囲気を邪魔されたからか眉間にしわを寄せた。 相対して愡純はホッとしている。 「はい、椛田」 『俺だ、この後暇か?』 「はい、解りました。その件ですね」 『は?…仕事じゃないんだが?』 「では会社に至急戻ります」 『ちょっ、待て』―――――――ブツッ 「部長大変申し訳ありません。まだお付き合いして居たかったのですが仕事が残っているので」 にこりと極上の笑みを添えて言えば、年甲斐もなく部長は赤面し愡純に魅入られる。 「そっ、それならば仕方がないなっ、行きなさい」 「ええ、有難う御座います」 既に個室から出る準備をしている辺り余程ここに居たくなかった事が窺える。 「そうでした、部長」 個室の戸を開ける寸前、愡純は徐に口を開く。 「ん?何かね?」 まさに気分上々な色惚け爺と言ったところか。 「私が世辞以外で中年既婚者色惚け糞爺を相手にするわけありませんよ?毎月の様に私に貢物を持ってきますが、私よりも大切にすべき女性がいらっしゃるのでは?それとその舐める様な視線、本当に不愉快です。」 では。 ポカーンと口を開けている部長を一瞥し、本当に個室を出て行った。  
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