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紅陵館学園学園は、その名の通り紅に染まる陵の上に立つ学園であり、秋になると校舎へと続く坂道が見事に紅葉する。
普段はただ忌々しいだけのこの坂道は、秋になると岩美市で屈指の名所、または隠れた絶景として有名だ。
連続誘拐事件から三週間程が過ぎ、中間テストを終えた紅陵館学園。
非常勤として赴任してから三ヶ月が過ぎようとしていたその日、午前の授業を終え、教室を出た暁彦は思わず足を止めた。
休み時間に行き交う生徒達のなか、数人の男性が生徒を相手になにやら話している。
校長と教頭につれられるようにして、見慣れぬ男がそこに居た。
スーツ姿にネクタイまで締めているその男は、年齢は暁彦と同じ程度。今朝は職員室で見かけなかったが、新任教師だろうか。
その若い男は、校長や教頭だけでなく女子生徒を相手にも、やたらと腰が低い。
まるで、得意先に挨拶回りをする営業マンのように、ことあるごとに頭を下げ、低姿勢な振る舞いだった。
やがて会話を終えた男はこちらを振り返り、暁彦と視線がぶつかる。
さほど気にせず通り過ぎようとしたところで、突然校長に呼び止められた。
「ああ、ちょっと御堂先生」
「……はい?」
立ち止まった暁彦へと辛辣な表情をした校長が重々しい口調を向ける。
「実はこちらの方が、あなたにお話があるそうなんですが」
何事かと首をひねる暁彦に対し、校長と教頭の表情は重く、暗い。
改めて男を見ると、彼は人なつっこく、柔らかな笑顔を浮かべて会釈をしてきた。
「あの……私に何か?」
「それは、こっちが聞きたいですよ。御堂先生」
不意に向けられた教頭の言葉、その声音には疑心が満ちている。
まるで、暁彦を糾弾するかのような、そんな眼差しを向けられた。
しかしそんな風に見られる意味が思い当たらず、暁彦は首をひねる。
そうこうしていると、男が一歩前へと踏み出し、伺うような声で告げる。
「御堂先生……ですね。ちょっとお話よろしいですか?」
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