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密接に関わる。その言葉が意味することを、暁彦は思うがまま口にする。
「共犯者が、いたと?」
まさか、と思い、暁彦は思考を巡らせた。
自分たちの調べが甘く、裏木の情報をもってしても気づけなかったのかも知れない。
しかしすぐに、それは単なる杞憂であると思い当たる。
そう、共犯などあり得ない。
奴は能力の事を認めたし、自らの意思で能力を使い、その力の誘惑に負けていた。
死すべきクズでもあった。自分たちの決断に、間違いは無かった。
そう心中で断じて、暁彦は霧咲を見る。
「いいえ、そうじゃないんですよ。ただ事件直後の彼の身体から微量の薬物が検出されたんです。その成分は特殊なもので、どの医療機関からも処方されていないんです。非常に人体には悪影響のある薬物なので、おかしいなと思ったんですよ。ですから、彼にその薬物を流していた人間が居るんじゃ無いかと思いましてね」
なるほど、と暁彦は膝を打ちたくなった。
公安がわざわざこの岩美市まで足を運ぶ所を見ると、麻薬の密売関係の組織犯罪につながっているんだろう。
そもそも公安とは、国家に対する犯罪を取り締まるのが主たる役割だ。
詳細がなんであれ、あの犯人がそういった関係の筋と関わりがあったとしても不思議は無いし、それを追って公安の捜査官が現れても不自然でもなんでもない。
鎌首をもたげていた不安を霧散させ、暁彦は深く息をつく。
「それにしても、ずいぶんと食いつきましたね?」
「え……?」
突然、刃物のように鋭く向けられた問いに、暁彦はただ聞き返すしか出来なかった。
「まるで、共犯者なんて居るはずが無い、とでも言いたげだったので」
「……別に、そういうわけでは」
思わず、数秒の間言葉を失ってしまった。しかし、ここで取り乱しては奴の思うつぼなのかも知れない。
暁彦はこの時、霧咲の表情から、どこか言いしれぬ悪寒を感じていた。
まるですべてを見透かしているかのような、底の知れない眼差し。一見おちゃらけたようなその言動の裏で、虎視眈々とこちらの心中を探るかのような、
すきあらば身体を引き裂いて情報を引き出されそうな恐怖のようなものを確かに感じていた。
しばしの沈黙が流れ、吹きすさぶ秋風のなか、二人は互いをじっと見据えたままぴくりとも動こうとはしなかった。
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