7/10
前へ
/50ページ
次へ
やがて、霧咲は鋭い視線を取り払い、にんまりと笑う。 「いやぁ、すみません先生。職業柄、気になることを聞いてしまう癖があるんですよ。どうか気になさらないでくださいね」 「……いえ、別に」 「それじゃ、僕はこれで……」   唐突に話を切り上げようとする霧咲に、暁彦は問いかける。 「私に聞きたいことと言うのは、それだけですか?」   質問と言うよりはどこか世間話、といった感じの話だった。   不思議に思い問いかけると、霧咲は立ち止まって振り返る。 「ああ、なんでしたっけね。忘れちゃいましたよ」   そしてまたしても、人の良さそうな笑顔で笑うのだった。   それでは、と言い残し、霧咲は颯爽と校内へと去って行く。   暁彦は、手にした名刺にもう一度視線を落とし、その手にじんわりと汗がにじんでいるのに今更気づく。 「霧咲……淳平……」   彼が立ち去っていった扉をぼんやりと見つめていると、ポケットの中で電話が鳴った。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加