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やがて、霧咲は鋭い視線を取り払い、にんまりと笑う。
「いやぁ、すみません先生。職業柄、気になることを聞いてしまう癖があるんですよ。どうか気になさらないでくださいね」
「……いえ、別に」
「それじゃ、僕はこれで……」
唐突に話を切り上げようとする霧咲に、暁彦は問いかける。
「私に聞きたいことと言うのは、それだけですか?」
質問と言うよりはどこか世間話、といった感じの話だった。
不思議に思い問いかけると、霧咲は立ち止まって振り返る。
「ああ、なんでしたっけね。忘れちゃいましたよ」
そしてまたしても、人の良さそうな笑顔で笑うのだった。
それでは、と言い残し、霧咲は颯爽と校内へと去って行く。
暁彦は、手にした名刺にもう一度視線を落とし、その手にじんわりと汗がにじんでいるのに今更気づく。
「霧咲……淳平……」
彼が立ち去っていった扉をぼんやりと見つめていると、ポケットの中で電話が鳴った。
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