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そしてその下校途中が現在となるわけだが、ひとりの少女が俺の前に立ちふさがっていた。
なるべく人目につかないようにこそこそと帰ろうとしていた俺を引き止めたのは、長髪黒髪の凛とした少女。
美人というよりは可愛いと表現すべきその少女は、絵に描いたような可憐さを放っている。
まだあどけなさがある表情と黒真珠のような透き通るその瞳は俺をしっかりと見据えて、俺は思わず立ち止まってしまった。
立ち止まった理由は、その少女が一線を画するような存在だったからではなく、今まで受けたことのなかった感情が渦巻いたからだ。
明確な敵意。
それも妬みや僻み、それに俺を利用しようとするような欲にあふれたような、そう言ったありふれた感情ではなく――いや、これもありふれた感情なのだろうがピリピリするような敵意。
確実に初対面なはずだ。
敵意に対する反応よりもまず疑問。別に人に恨みを買うような生き方はしていないと思う。
俺は目の前のその少女に関わらないほうが良いという判断を即座に下し、目をそらしてその場を通り過ぎようとした。
「待って。あなたマルク・クレスターだよね」
「……何?」
スルーすることも願い叶わず、話しかけられた俺は生返事で返す。
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