43人が本棚に入れています
本棚に追加
「……なら、私のことを知っていて話すこともないっていうのかな?」
「だから、もう終わった話しでいちいち噛み付いてくんなよ」
俺の一言にエリナさんはキレた。
静かに、それでもはっきり感じ取れるくらいにエリナさんはキレていた。
ダンッと、机を叩いて俯いたエリナさんの表情は見えないが、歯を食いしばって怒りを抑えようとしているのだろう。
「終わった話? どこが終わっているんだよ。勇者の名を盗み、名声を手にした君たちクレスター家はそんな非道な行いをして何も感じないって言うのか!」
搾り出すように吐き出したその言葉は、俺に深く突き刺さった。
ティローネ。その名はかつて、本物の勇者だった男の名である。
祖父が間違った名声を手に入れた際、その勇者の子が生まれていたと耳にしたらしい。
そのことを知った祖父はすぐさまティローネ家へと訪れ、そのことを全て洗いざらい説明したそうだ。
そして勇者の実の子供、つまりエリナさんの父親はそのことを全て知ることになり、祖父とは少なからず和解していたそうだ。
そのことを言いふらすこともなく、現状に文句を言わなかったエリナさんの父は本当に偉大だと思う。
最初のコメントを投稿しよう!