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魔王という世界を征服しようと企む史上最悪の魔物の長が存在していたのは今からおよそ40年ほど昔の話であり、それは周知の事実であった。
かつて世界を混乱と恐怖に導き、悪逆の限りを尽くしたそれをとある勇者が激戦の末に討ち滅ぼしたのはとても有名な話である。
魔王を討ち滅ぼした今現在でもその爪あとは酷く残っているが、それでも人々は手を取り合いかつての繁栄を取り戻していた。
現在の教科書に載り、絵本にも小説にもなっているその勇者というのは常軌を逸した強さを誇り、人類史上最強とも謳われている。
その勇者亡き今、世界はそれを伝説として崇め、その勇敢なる生き様を後世に残してきた。
しかし俺は知っている。伝説の勇者――つまり俺の祖父は伝説の勇者なんかじゃなかったことを。
亡き祖父は生前よく言っていた。
「勇者は他にいた。そして魔王と痛み分けで倒れた勇者に変わってたまたまそこに居合わせた私が魔王に止めを刺したのだ」
祖父は勇者ではなく王国に仕える騎士だった。
魔王に攻め入ったとき、その勇者との激しい攻防に近づけもしなかったそうだ。
勇者のパーティーは次々と倒れていき、援軍として送られた祖父の騎士団も全滅した。最後まで命からがら生き延びた祖父は、ただただ勇者と魔王の戦いが終えるのを見ていることしかできなかったそうだ。
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