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簡単に帰ってくれることに拍子抜けする反面、俺は気が滅入るのを感じて、また深いため息をついて扉を閉めた。
最近やたらとこういった行為が頻繁になっている気がする。勇者という本物の生ける伝説が存在しなくなった今、それもただの伝説になってしまったせいなのだろうか。
俺は重い足取りでテーブルに向かうと、すでに朝食を作り終えて待っている母がいた。
「母さん。待たせてごめん」
「いいのよ。本当はああいう人たちの対処は私がやらなくちゃいけないのにね」
そう柔和に微笑む母は、少し申し訳なさそうに眉を下げた。
別に気にしていないし、朝から雰囲気が暗くなるのも嫌なので、俺は無理矢理に話題を変えて椅子に腰掛ける。
「ほら。今日俺入学式あるんだからもっと盛大に見送ってよ」
「そうだったわね。さ、早く食べて行かなくちゃ遅刻しちゃうわよ」
俺は母の言葉に軽く頷いて朝食に手を付ける。
今日は高等部への入学ということで、少し感慨じみた心境の中、俺は朝食を食べ終えるとすぐに制服へと着替えた。
「じゃあ、行ってきます」
手を振る母に微笑みで返して家を出る。
まだ肌寒い春の季節。
「寒っ」
思わず呟いた俺は、手と手をこすり合わせながら早足で学校へと向かった。
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