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ぱたぱたとはためく洗濯物を取り込んでいると、頭上から一枚の羽が落ちてきました。私はそれを拾い上げ、徐に空を見上げます。
「ユーリか? 久しぶりだな」
するとややして、鳥の影かと思っていた黒い点がぐんぐん近づいてきて、瞬く間に人の姿になりました。ばさりと大きく翼をはためかせ、私の前へと降り立ったのは確かに私の顔見知り――。
だけど、私の記憶にある彼には翼はなかったし、実は翼があるなんて話も聞いたことはありませんでした。
「……リハルトですか? 本当に?」
「ああ。この通り。って、まさか暫く会わないうちに顔忘れたとか言うなよ」
「そうじゃないですけど……だって、翼が」
「ああ、そうか」
取り込んだシーツを抱えたまま、私はついついその背中ばかり見てしまいます。
「俺、以前は上に住んでいたんだ。もう随分昔の話になるが」
「上」
繰り返すと彼は頷いて、
「天使、ってことですか」
「そう言うことだな。言っていなかったとは思わなかった」
言うなり、あっさり翼を消してしまいました。
「あ……」
ああ、何だか勿体無い。思わず小さく声が漏れてしまいました。
そんな私に、彼は微笑んで続けます。
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