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久々に訪れた天界は、やはり微妙に居心地が悪かった。
家の地位が高いのは俺の所為じゃないし、勝手に組まれていた縁談にも興味が無い。
全く、妹の結婚話にかこつけて、俺を家に戻そうなんて考えが甘い。俺には天界での生活にはまったく未練がないし、地上での生活こそ心底気に入っているんだから。
「それで、どうだったんだよ。久々の実家は」
「別に、なんら変わりは無いさ」
街外れに、一部では神秘の森と称される深い森がある。
森の中には、スポットライトのように日光が射し入る場所が幾つかあり、そのうちの一つに俺は小さなログハウスを建てて、のんびり喫茶店(兼、バーのようなもの)を営んでいた。
場所が場所だけに、一見さんはなかなかやってきてはくれない。
だが、それもまったくいないわけではない。人伝に聞いて来店する客もいれば、森に迷って勝手に辿りつくような客もいる。
そして閉店間際のこの時間に、俺の前に堂々と座っている男――は、紛れも無く後者の客だった。
「しっかし、リハルトの妹ってんなら、どれだけ美人さんなんだか。一度お目にかかってみたいもんだぜ」
「……そう言うお前はどうなんだ。たまには帰っているのか」
「んー、まぁぼちぼち」
「嘘を吐け」
店内に幾つかある出窓にカーテンを下ろしながら、俺は即答で返す。
手の中のグラスを揺らしながら、男は肩を震わせて笑っていた。
ちなみにうちは喫茶店だが、手作りの果実酒なども少しだけなら置いてある。だから閉店時刻も午前〇時と早くはない。
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