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「姫! いま助けに行きます!」
雷雨の中、王子は颯爽と馬を駆り、使い慣れた剣を片手に樹海を抜けていきます。
打ち付けるような雨が、王子の頬を打ち、行く手を阻むかのような強風に、まともに目を開けていることもできません。
「信じていますわ。あたなのこと、いつまでも…!」
王子のフィアンセでもある美しい……美しい? 姫君は、塔の上に幽閉されていました。それでも姫君は祈り続けます。暗雲の立ち込める空に向けて、ひたすらに王子を信じて。
「どこです、姫! 答えてください! いったいどこにいるので――あ!」
王子はやっと、塔の近くまで辿りつきます。
けれどその直後。王子が勢いよく馬首を翻したところで、
「あははははははは!」
ばきっと大きな音を立てて、馬の首が取れてしまいました。
辺りに響いたのは、子供たちの笑い声です。――もちろん舞台下の。
本番でなくて何よりだと思いました。
演じていたのは私の友人で、彼らは今度、この劇を町のお祭りで披露すると言うのです。
その予行演習も兼ねて、一度子供たちに見てもらうべく、私の保育園にやってきたとのことですが……。
あ、ちなみに馬は張りぼてでした。
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