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『私は教え子の溝口 カンナと確かに性交渉しました』
『認めるのですね?』
『はい』
どうして彼がそんな嘘を吐いたのかは分からない。
私達はあのマダガスカルってふざけた名前のホテルで何もしなかった。
翌日、昼過ぎに先生と学校に行くと泣き崩れる母が居て、及川先生を睨む父が待っていた。校長先生は青ざめた顔で私たちを見た。
『溝口 カンナさん。及川先生に無理矢理性交渉を強要された事に間違いはありませんか?』
『間違ってます』
『え?』
『私は青春を先生に買ってもらったんです』
校長先生の言葉に私はそう答えた。
隣の父と母は青ざめた顔で私を見る。まるで化け物か何かを見るかのような顔で、私を見る。
『私は、人生で最高の時間を、及川先生に買ってもらったんです』
騒ぎ始めるPTAの役員に、教師たち。
父は泣いていた。母は放心状態だった。
私と及川先生は死んだ。
昨日の夜、あのマダガスカルって名前のラブホテルのベッドの上で死んだ。
『私の母は不倫しているんです。父は毎週金曜日、駅裏のヘルスに通ってます。母の不倫相手は高校の同級生で、父よりカッコイイです。父のお気に入りの風俗嬢はカンナ、私と同じ名前で、そこのヘルスでは女子高生のコスプレで接客します』
教室の中は再び静寂が流れた。
『それでも私は、そんな両親とスーパーのお惣菜を食べます』
『どうして?』
そう聞いてきたのは及川先生だった。
だから、私は笑って答えた。
『それが、私の生きる世界だからです』
そう言って私は教室を出た。
誰も追ってこなかった。制服のポケットに入っていたのはぐしゃぐしゃになった3万円だ。
私も先生も自分を殺したかったんだ。
普通の顔を、何ともない顔をして生きる自分を殺したかったんだ。
私達が憎んでいたのは両親でも恋人でもない。ただ黙って平然を装う自分自身だ。両親の気持ちは私には分からない。先生の恋人の気持ちも先生には分からないだろう。私達は深く繋がっているようで違う人間なのだ。
もしかしら彼らの行動には深い意味なんて無かったのかもしれない。
私は校庭に向かうと素手で穴を掘った。
そしてそこに3万円を埋めた。
これは私の死体だ。
昨日まで生きていた、私の死体だ。
私と、及川先生の死体だ。
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