第1章

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ー1日前 どうやったら楽に死ねますか?期末試験の日、私は現代文の答案用紙にそう書いた。別に何の意味もない。ただ、聞いてみただけだ。そう、人生に悩む高校3年生の戯言だ。 現代文の担当は若い男の教師だった。 少し癖っ毛で、大きな黒縁眼鏡。彼はまだ26の若さからか女子生徒にはとても人気があった。確かに話は面白いし、爽やかな印象で保護者や周りの教師からも人気がある。 でも私は逆にそんな完璧さに生臭さを感じた。 『次は溝口 カンナ』 及川先生は澄んだ声で私を呼ぶとテストの答案用紙を手にしたまま私に視線を移す。席を立ち、彼の前まで行くと何もないかのように『頑張ったな』といって私に自殺願望が書き殴られた答案用紙を返却した。 点数は86点。まぁ、悪くない。別に大学なんてどこでもいいし、今更勉強を頑張るつもりもない。 席に着いてテストの一番下の解答欄に目を向ける。 そこには『どうやったら楽に死ねますか?』という問いの下に綺麗な字で返事が書いてある。 目を閉じて、息を吐き、死を想像してみてください もしかしたら君はもう死んでいるのかもしれません 『………は?』 彼の返事に私は目を丸くした。 こんな返事は予想もしていなかった。どうせ悩みがあったら先生に、とか、大丈夫ですか、とか適当な文句が並んでいると思ってた。 私が死んでいる? なにそれ。だって私はここに座っているし、及川先生の声も聞いている。 クラスの同級生たちの下らない会話も耳に入る。 なのに、私は死んでいる? 『もうすぐセンター試験だから気を抜くなよ』 及川先生は何事もないかのように生徒に向かって話している。 私は答案用紙をぐちゃぐちゃに丸めてカバンに押し込んだ。納得できなかった。答えなんてなんでも良かったはずなのに、この答えだけは意味が理解できなかった。 いや、納得できないのは私の考えの範疇を超えていたからだろう。
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