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『及川先生、今いいですか?』
放課後、及川先生はだいたい図書室で当番をしている。
私はカバンを片手に座って本を読む彼をじっと見下ろした。
及川先生はゆっくりと視線を上に上げて読んでいた本を机の上に置く。本の題名はオートフィクションという名前のものだった。
『スカート、短いぞ』
『第一声がそれですか』
私は膝上のスカートを更に上げて短くしてみせた。彼は冷たい目で私を見つめる。さっきの授業とはまったく違う目つきだ。
『私、死んでるように見えます?』
そう聞くと先生は眼鏡を外して目を細めた。
『死をリアルに考える奴はもう頭のどっかが死んでるんだよ。自殺願望とか消滅願望とかさ、考えてる時点でどこかしら死んでるんだ』
『じゃあ、私はもう死んでるんですか?』
『お前がそう思うなら死んでるんじゃないか?』
及川先生はとても投げやりに答えた。まるで私が死んでようがそうでなかろうが気にしてないようだった。
『私、これから生きていく想像ができないんです。死ぬ想像ならいくらでもできるのに』
『奇遇だな。先生もだよ』
『じゃあ、一緒に死にます?』
私は冗談で言ったつもりはなかった。
及川先生がどんな顔をするかは想像できなかった。彼はもう私の予想の中に収まる人間ではない。
私は今すぐにでもどうにかなりたい程焦っているのだ。
何にか?
そんなの簡単だ。
私にとって生きることは死ぬ事よりも恐ろしい。
息をするだけで、瞬きをするだけで
想像していた残忍な事がリアルになっていく冷たい世界だ
私は自分が生きていく様が想像できない。高校生になるまでは想像できた。家から近い一般的な高校へ入って、大学受験をするのだろう、そう思っていた。
でもそこから先が真っ暗だ。私には夢も理想もない。尊敬する人もいない。
私にとって『生』より『死』の方がリアルだ。
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