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『観覧車でも乗る?』
『観覧車?』
『そう、観覧車。どうせ死ぬなら上からこの街を見下ろしてみない?』
及川先生はそう言って笑うと駐車場に車を止めた。観覧車は平日という事もあり空いていたが、何人かのカップルが並んでいる。私と及川先生は何故か手を握って列に並んだ。はたから見たら高校生と社会人のカップルに見えるのだろう。だって及川先生はお金で売春してそうな男には見えないから。
眼鏡を外した彼はとても凛としている。
まるで別人のようにも見えた。
『お待たせしました』
係員の合図に及川先生は私の手を引いて観覧車に入った。
少し鉄臭いその中は不安定にグラグラと揺れた。彼は意地悪そうな顔で『怖い?』なんて聞いてくるが、私は無視をする。
『溝口はさ、俺とエッチしたら死ぬの?』
『先生も一緒に死んでくれるんでしょ?』
『まぁ、そうだよね』
何だこの自然なようで不自然極まりない会話は。
エッチしたら死のうなんて、まるで心中を企てる男女だ。でも私と先生は別に心が通っているわけじゃない。
『どうして未来が見えなくなったの?』
及川先生の質問に私は少し考えた。生きたい理由なら無いが、死にたい理由なら腐るほどある。
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