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四月の春の風に揺れて、桜の花びらが目の前を舞って行く。
手を伸ばしたら掴めそうな雲を眺めながら大きな欠伸を一つして、黄緑色の癖毛の青年は仰向けになって寝転がっていた。
前髪は目を通り越して鼻まで覆われ、サイドの髪は完全に耳を隠していて、オマケに頬側へとクルリと跳ねている。
身長は百七十七センチと、今年の冬ごろから日に日に伸びて行ったが、相変わらずの痩せ型であり、顔は童顔のままだった。
透き通る青空をまるで鏡にでも写したかの様な青色の瞳をパッチリと開いて、先ほどから鳴る電話の呼び出し音が響く。忍ばせていた制服のポケットから、スマートフォンを取り出し、表示されるディスプレイに目を向ける。
そこに映し出されていた名前を見ると、面倒くさそうな表情で、渋った。
しばらくしても鳴り止まないので、堪忍したのか、ようやく通話ボタンを押した。
「一球くん!? どこに居るの!?」
第一声。飛び込んできたの、怒りに満ち溢れた女性の声だった。
青年は、片方の口を吊り上げて苦笑いを浮かべて離したスマートフォンを、恐る恐る耳へと近づける。
「どうかしたの? 紺野」
電話の相手の名前を言いながら、一球と呼ばれた青年がのびをする。
寝転がっていた体を起き上がらせ、ゆっくりと足を進めて行く。
誰もいない屋上に、一人ポツンと居た。
ふと、気になった空を見上げる。飛行機雲が、一つの白い線を描いて東から西へと横切っていた。桜の花びらが一枚、足元に落ちてきた。
どこから飛んできたのだろうと、不思議に思いながら体を屈めて指先で拾い上げる。
「ねぇ! 聞いてるの!?」
「あーごめん。なんだっけ?」
「もう! 今は新入生を勧誘するって昨日炎茅キャプテンが言ってたの忘れたの?」
「そうだったね・・・忘れてた」
「忘れてた、じゃないわよ! 今から支度して部室に集合よ。私は先に言ってるからね」
ガチャ、と通話が切れた。どうやら口調振りからして御怒りのご様子だ。
一球は、やれやれと諦めた表情を浮かべて屋上から校舎に繋がるドアまで重たい足取りを引きずって行く。
ドアの手前で足が止まる。手に持っていた桜の花びらを目にした後、手のひらに乗せ換えてふっ、と優しい息を吐いた。
空高く舞い上がる桜の花びらを見送りながら一球は優しく微笑んで、屋上を後にした。
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