第ニ話 確かな想い

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 個人的に、ボクは朝倉を助けたいと言う気持ちがある。  それは確かな想いだった。  あの目、何もかも失った光を閉ざした目を見るたびにボクも去年まで同じ様な感じだったと言う事を思い知らされた。  拒む。  恐怖。  絶望。  痛み。  怒り。  幾つもの負の感情で巻きつかれて成す術もない、朝倉はかつてのボク自身と似ていると感じた。  勿論、全ての感情を経験した訳ではないのだけど・・・絶望を感じて閉じこもっていたはずなのに、結果的にボクは救われ、昔のボクは居なくなり、今のボクが本当のボクでボクのまま居れている事。  道は険しいかもしれない・・・。  もしかしたら彼の胸に深く傷を付けたトラウマは癒えないかもしれない。でも、そこでボクは足を・・・手を進めることを止めたり、差し伸ばした手を引いてはイケないと思っている。  しかし、朝倉が今も抱えてる絶望を知ってしまった以上、ボクはボクなりに全力で希望の光を照らしてあげたい・・・何としても・・・。  この日の野球部の練習は、いつも以上に活気に満ち溢れていた。新入部員である瀬菜に揚羽に加えて、四人の希望者が入部届けを提出してくれたのだ。  それを見た勝森監督は、嬉しさを堪え切れなくなったのか、練習着に着替えて気合を入れた矢部くんの背中を叩いて、矢部くんは背中の痛みを訴えて保健室に直行したハプニングもあったが、今日は一段と部員達にもやる気が倍以上あってとてもいい雰囲気だった。  投手であるボクは、秋季大会後から取り入れた光さんや聖姉ちゃんが提案してくれた特別メニューを・・・勿論炎茅キャプテンも勝森監督も了承済みだ。そのメニューに早速、取り掛かる事になり、皆より遅めにアップを開始を始める。  体を解しながら、ボクはノックを受ける野手陣の練習を見守っていた。  私立パワフル学園の欠点だった守備面の強化が徹底的に鍛え上げられていた。特に目を疑ったのは、ゲッツープレイなどの野手と野手の連携が断然と変化していた事には、ただただ驚いた。  それ以上に驚いたのは、練習に参加した瀬菜が誰よりも上手かった事だった。  女の子ながら他の人たちより肩の弱さはあるものの、引けを取らないほど的確な早送球に思わず周りから声が漏れるほど。 「瀬菜の奴、あんなに上手かったのか」  感心しながらボクが言う。
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