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村の南西に、険しい山がある。
そこは名士達の狩り場で、娯楽の場所だ。
僕の自宅のすぐ裏手だから、狩りが始まれば五月蝿くて仕方がない。
今日は騎士団の三名と、名士五名が付き添い、狩りを楽しむようだ。
小麦畑から走り抜ける馬車を見つめ、もやもやとした黒い感情を抱いた。
落石で全員、死ねばいいのに……と。
そんな風に思った罰なのか、走り抜けた馬車が引き返してきた。
そして荷台から村長が姿を現し、でっぷりと肥えた腹を揺らしながら、僕の方へ歩いてくる。
「おい。お前。名前は?」
「クラン・ガリエルです」
「そうか。喜べクラン。お前に特別な仕事を与える」
「……有り難う御座います」
「今日は猟犬が不調でな。代わりにお前が犬となれ」
「……仰せのままに」
僕は握りこんだ拳を見られないように後ろへ回し、歯を食い縛って笑顔を作った。
奴隷どころか、人間ですらないんだ。僕は。
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