第一章 魔女と僕

8/35
前へ
/38ページ
次へ
馬車へ乗るなんてもってのほかで、僕は走ってついてくるように命じられた。 およそ十キロという距離なのに。 弱った体に鞭を打ち、辛うじて見失わない距離で馬車に続いた。 荷台では、必死の形相で走る僕をせせら笑う、醜く太った男達の姿があった。 山の麓へついた頃、息も絶え絶えになっていた。 しかし、そんなことはお構い無しに、彼らは山へ踏み込んでいく。 僕のご主人様は騎士団のお偉いさんだ。 騎士団長補佐、バリラ・ムスカス。 年齢は五十近くで、騎士団とは思えない恰幅のよさだ。 訓練なんてまったくしていないのだろう。 「おい。犬。獲物を見つけたら呼びに来い」 「……はい」 清流の側で酒を飲み始めたバリラは、不愉快そうに僕を送り出す。 まるで追い払うように、シッシッと手をひらひらと振った。 本当に、殺してやろうか。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加