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馬車へ乗るなんてもってのほかで、僕は走ってついてくるように命じられた。
およそ十キロという距離なのに。
弱った体に鞭を打ち、辛うじて見失わない距離で馬車に続いた。
荷台では、必死の形相で走る僕をせせら笑う、醜く太った男達の姿があった。
山の麓へついた頃、息も絶え絶えになっていた。
しかし、そんなことはお構い無しに、彼らは山へ踏み込んでいく。
僕のご主人様は騎士団のお偉いさんだ。
騎士団長補佐、バリラ・ムスカス。
年齢は五十近くで、騎士団とは思えない恰幅のよさだ。
訓練なんてまったくしていないのだろう。
「おい。犬。獲物を見つけたら呼びに来い」
「……はい」
清流の側で酒を飲み始めたバリラは、不愉快そうに僕を送り出す。
まるで追い払うように、シッシッと手をひらひらと振った。
本当に、殺してやろうか。
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