第一章 魔女と僕

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警戒しながら歩を進めていくと、草藪の辺りにうっすらと血痕が残されていた。 まずい。傷を負った獣は危険だ。 一度戻り、誰かを連れてくるべきだろうか? しかし、もし子熊が息絶えていたら、自宅はすぐそばだし、食糧として運べるかもしれない。 ……よし、行こう。 むざむざくれてやる理由もないし。 冷や汗が頬を伝い、呼吸が荒く短くなる。 草藪へ恐る恐る上半身をつっこみ、掻き分けて奥へ進んだ。 「ーーあれ? 人が……」 まるでそこだけが手入れされたかのように、短い芝が生え揃った四メートル四方の空間が広がっていた。 その中央に、傷を負った少女が力なく横たわっている。 髪色は世にも珍しい黒色。 腰まで伸びた鴉の羽根のように艶やかな髪は、まるで伝説の…… ……魔女、なのか? アスタリアの図書館で読んだ、魔女に関するお伽噺に、黒髪を翻し高らかに笑う姿が挿絵としてあった。 曰く、存在悪である、と。 魔女を見つけたら、騎士団への報告が義務づけられている。 勿論、見かけたという事例は聞いたことがない。
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