プロローグ

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「ハッハッハッハッ……」 か細い脚が、力強く大地を蹴る。 迫り来る男達は武器を携え、華奢な少女へ明確な殺意を向けていた。 「いたぞー!」 「ーーッ!」 木陰に隠れても、岩陰に身を潜めても、茂みに飛び込んでも、数の違いから容易に見つかってしまう。 ああ、ここまでなのね。 少女は諦めた。 ただ、知識を伝えるだけの運命。 ただ、礎となる宿命。 何も害はない、いわば一冊の本。 自分を敵とするのは、人の奥底で妖しく笑う業だ。 鬱蒼とした森を抜け、高さ三十メートルはあろうかという崖に追い込まれていた。 落ちればひとたまりもない。 叩きつけられた花瓶のように、粉々に全身の骨は砕けるだろう。 けれどーー 「……やっぱり、まだ諦められない」 じりじりと迫る十数人の人影に背を向け、少女はまるで巣立つ若鳥のように両手を広げ、空へ羽ばたいた。 翼のない彼女は、重力に逆らえないまま、暫しの間を経て眼下の森へ吸い込まれていった。
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