第一章 魔女と僕

20/35
前へ
/38ページ
次へ
 復讐の牙をもがれた僕に、いったい何ができるというのだろう。 一日を生き延びるだけで精一杯な僕に、何が。 ピシリ、と握りしめた皿にひびが入る。 まだ僕にこんな力が残されていたなんて、驚きだ。 「……ふう」 息を大きく吐き出し、鬱積した闇を吐き出した僕は、皿を片付けサリナの許へ向かった。 健やかに眠る彼女の傍らで膝をつき、額を覆う黒髪を撫でてみる。 アリアへしていたように、優しく。 擽ったそうに眉を動かし、サリナは寝返りをうった。 そんな様子を見ていた僕は、サリナをどこか遠くへ逃がそうと決意した。 お金もツテも、何もないのだけれど、考えればきっとあるはずだ。 彼女を逃がす手段が。 サリナへかぶせていた毛布をかけなおした僕は、クローゼットの奥に仕舞っていた大陸の地図を取り出し、床へ広げて頭を捻らせた。 東西南北のどこへ向かうにしても、国境を跨ぐ際には通行証が必要だ。 領主、あるいは上級貴族以上に発行してもらう物だが、多額の金を要求される。 もちろん、そんな持ち合わせはないし、かといってコネもない。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加